👶Chapter1【④味覚形成と将来の食習慣】

甘味・塩味・旨味の学習と生涯の味覚への影響

要点

  • 味覚は“先天+後天” 甘味を選ぶ、好むは生得的に強いですが、0〜2歳の経験で大きく変わりやすい。
  • “繰り返し少量×多様性”が鍵 新しい味の受容には8〜15回の提示が必要。家庭のうま味・香り・食感が橋渡しになる。
  • 甘味・塩味は“過学習”に注意 早期の高い甘味・高い塩味は将来の嗜好設定点を上げる。例)味濃いめが好きなど
  • うま味は味覚教育の味方 食材本来の味がわかり、野菜やたんぱく源の受容を高める。
  • 親のモデリングが最強 同席、同メニュー、肯定的な言葉が、報酬系(ドーパミン)を通じておいしい記憶を刻む。
味覚の生理と“学習可能性”

①受容体と初期バイアス

  • 甘味 新生児は甘味選好が強い(母乳の乳糖に適応)。
  • 塩味 出生直後は反応が弱く、乳児後期〜幼児期にかけて“学習”で好みが形成
  • 旨味 グルタミン酸・核酸系。たんぱく質・アミノ酸に関連し、満足感を生みやすい。
  • 苦味・酸味 安全回避システム(毒性・腐敗シグナル)として初期は拒否が出やすいが、反復的な経験で受容が上がる。

💡0〜2歳は味覚回路の変化が大きい→この時期の経験が小学生以降の嗜好の土台になる。

味覚は“風味”の一部

実際のおいしさは味覚(舌)+嗅覚(鼻腔、後鼻腔)+食感(口腔触覚)の統合=風味だし、ハーブ、柑橘(酸味)、温度の工夫で塩や砂糖を足さずに満足感を伸ばせる。例)ブドウ糖は温めると甘く、果糖は冷やすと甘く感じる。

②甘味の学習:強い本能を“適正化”する

なぜ甘味は“強すぎる”のか

乳児は本能的に甘味を好むが、追加糖(砂糖・果糖飲料)は高報酬=過剰な欲を招き、甘味の満足点を引き上げる。早期の高い糖の摂取は将来の糖摂取過多、肥満リスク、歯科疾患と関連。

有効な対応

果物(甘すぎないもの)、根菜の自然甘味を活かす。砂糖は1歳未満“不要”、幼児も極力控える

・甘味は食後の少量→主菜・副菜の受容を先に

・苦味野菜+自然甘味(にんじん・かぼちゃ)の組み合わせで受容を底上げ。


③塩味の学習:腎保護と将来の血圧

なぜ1歳未満は無塩が基本か

・乳児は腎機能・ナトリウム排泄能が未成熟。塩を“覚えさせる”必要はない

・早期の高塩味は将来の塩嗜好↑→塩分摂取過多につながり、血圧リスクと関連。スナック菓子とかの強い塩味も好んで食べる傾向。塩は摂りすぎても少なすぎてもダメで、それを小さい頃から調整できるように環境を整える。

有効な対応

出汁(グルタミン酸+核酸)で、将来、適量の塩、海塩などでも満足。香り(昆布、鰹、椎茸、柚子)で嗅覚報酬を高める。取り分けは味付け前。家族食は薄味基準で全員の健康にも寄与する。


④旨味の学習:味覚教育の“レバレッジ”

旨味は野菜・たんぱく受容の“橋”

旨味は塩の代替ではなく、塩を減らしても“おいしさを維持”できる味質。野菜の苦味動物性たんぱくの受容を助け、食事・食品満足度と多様性を高める。

実践

だし×苦味野菜(ブロッコリー、小松菜)

旨味×鉄源(赤身肉など)で鉄吸収と受容を底上げ

・熱すぎない温度で混ぜる


⑤学習メカニズム

反復露出

新しい味の受容には8〜15回の提示が必要。週2〜3回×数週間が実践的。

連合学習

香り×香り だし(慣れた味)+新しい味で橋渡し。
香り×栄養 食後の満足感と結び、好意度↑(砂糖依存は回避)

社会的学習

親が“おいしそうに食べる”同席・同メニューが最大の食育。強要より選択肢と自発が内的動機づけを強める。
食べてみようかな、食べたいな、おいしそうという環境づくりが大事。

⑥年齢別:実践ロードマップ

時期目的味の戦略現実的To-Do
初期(5〜6か月)固形食の“練習”と鉄導入うま味+自然甘味で入口を作る
塩は不要
根菜ピューレ+だし、午前に新味
たんぱくを混ぜる場合は耳かき一杯か、ペロッとなめせる程度で様子を見ながら、徐々に増やす
中期(7〜8か月)反復露出で野菜の幅を広げる週2〜3回×4週の露出計画
香り・温度で受容↑
ブロッコリー×だし、赤身肉×野菜類など、手づかみ導入
後期(9〜11か月)咀嚼と自律性の確立同席・同メニュー(薄味)
旨味で満足感
やわらか小片、一口だけルール、成功を言語化(肯定的な言葉)
例)美味しいね、幸せだね
完了期(12〜18か月)家族食へ移行塩は控えめ、嗜好レベルを下げるだし・香草・柑橘で味作り、海塩を少しずつあげ始める

よくある誤解とQ&A

Q1. 甘味を一切避けるべき?
A. “追加糖”は避けるが、食材由来の自然甘味は有用(露出・受容に役立つ)。甘いフルーツとかは必要なし。

Q2. 減塩で食べなくなるのでは?
A. 旨味・香り・温度で置き換え可。早期からの薄味学習は後年の嗜好品欲を下げて、中毒を避けることが可能になる。

Q3. 苦手な野菜はやめる?
A. 8〜15回の再提示が前提。調理法を変える(蒸→焼→煮)、混ぜる(だし・根菜)で克服は可能なことはあり。

Q4. 強く促した方が早く食べる?
A. 強要は逆効果。報酬系がストレスと結びつき、回避学習を強化させてしまう。“一口だけ”+称賛が有効→成功体験、褒められる嬉しさを印象づけ、良い記憶を定着させる。


家庭での原則10個のポイント

  1. 新味は午前・微量から(観察しやすい)。
  2. 週2〜3回×4週の反復で“受容の窓”を作る。
  3. 旨味、香り、温度で塩・砂糖に頼らない満足感を養う。
  4. だし×苦味野菜、だし×鉄源の組み合わせ。
  5. 自然甘味は前菜にしない(主菜受容を先に)。サツマイモよりもジャガイモの方が良いが、ない場合はサツマイモでもOK
  6. 同席、同メニュー、肯定語=最強のモデリングであり、良い記憶として定着する、大人になっても嫌いになりにくい。
  7. 一口だけルール+食後に努力を言語化して称賛。すごい!かっこいい!かわいい!!などでもOK。
  8. 加工品あげる場合は原材料を確認。塩や砂糖などが入ってないか。
  9. 塩は1歳未満“不要”、1〜3歳も“控えめ”。幼児食はスクールの内容になるので、詳しくは解説しませんが、あげるとしても少ない量からあげる。塩の質やキレイさにはこだわること。
  10. 失敗や成功でも学習素材になる 調理、温度、組合せを変えて8〜15回。まずい、美味しい、普通を体験させる

参考リンク🔗

胎児から新生児まで
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195666325000431

乳児による出生前と出生後の味覚学習
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1351272

💡出生前のママの食生活が胎児に与える影響については、NMS栄養学スクールで詳しく解説します。

乳児における風味の知覚 発達と機能的意義
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3202923/

まとめ

味覚は育てられる・育てるもの。0〜2歳の反復露出×うま味、香り、温度、親が魅せる

薄味でも“おいしい”と感じる脳

をつくれば、糖に依存しない一生の食習慣を無理なく、我慢ではなく実現させることは可能。必須栄養素を満たしてあげることができれば、甘いものなどを食べても、少量で満足する。もちろん、味覚を変えるのは大きくなってからも可能ですが、メンタル的に辛い思いをさせる可能性はある。

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